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この章で学ぶこと

顧客からの問い合わせに返信する仕事は、書く速さより「何を言ってよくて、何を言ってはいけないか」の判断が重い仕事です。 急いで返そうとすると、社内で決まっていないことまで約束してしまう危険があります。

この章では、返信文とFAQをAIに手伝わせながら、次の3つを練習します。

  • 相手の感情と社内ルールを、制約として明文化する
  • AIが勝手に「約束」してしまう失敗を防ぐ
  • 大量の問い合わせを分類し、FAQの種を見つける
  • 毎回変わらない社内規定を、AIにあらかじめ登録して、入力の手間を減らす

第1章で学んだ5要素(目的・入力・制約・出力形式・検証)は、この章でもそのまま使います。 素材はすべて架空のデータです。実際の顧客の氏名・注文番号・メールアドレスは、AIに貼る前に必ず伏せてください。 本コースは実務練習用の教材です。AIの出力は必ず人が検証してください。

このユースケースが起きる場面

ECサイト、SaaS、店舗の予約窓口など、問い合わせを受ける仕事は業種を問わず存在します。 担当者が悩むのは、たとえば次の場面です。

  • 怒っている顧客に、誠実に、しかし社内で決まっていないことは言わずに返信したい
  • 同じような問い合わせが毎日来るので、FAQにまとめたい
  • 新人でも一定の品質で返信できるよう、型を作りたい

AIは文章の丁寧さを整えるのが得意です。 一方で、丁寧に書こうとするあまり、社内で決まっていない返金や納期を「お約束」してしまうことがあります。 顧客対応では、これが最も高くつく失敗です。

プロンプト設計シート(再掲)

**目的**:誰に・何のために・何を作るか
**入力**:AIに渡す素材は何か(機密は伏せたか)
**制約**:やってはいけないこと・守るルール
**出力形式**:表・箇条書き・文字数など
**検証**:出力が正しいか、何と突き合わせるか

この章で特に効くのは、「制約」に社内ルールを書くことです。 AIは、あなたの会社の返金規定を知りません。書かなければ、一般的な会社の対応を想像で補います。

実例:配送遅延のクレームに返信する

状況と素材

あなたはオンラインショップのサポート担当です。 顧客から次のメールが届きました。

件名:注文した商品が届きません

ミナト商店 ご担当者様

9月20日に注文した掃除機(注文番号 A-10482)が、まだ届きません。
到着予定は9月25日と聞いていましたが、今日は9月29日です。
連絡もなく、とても困っています。いつ届くのか、至急教えてください。

社内では、次の状況が分かっています。

【社内メモ】
- 配送業者のシステムでは、9/26に配送センターに到着。以降の追跡情報が更新されていない
- 配送業者に調査を依頼中。回答は最短で明日
- 返品・返金は、商品未着から14日を過ぎた場合に検討する(社内規定)
- お詫びのクーポン提供は、担当者の判断ではできない(上長の承認が必要)

悪い指示とその失敗

この顧客に返信メールを書いて。

返ってくるのは、たとえば次のような文章です。

このたびは大変なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。明日には必ず商品をお届けいたします。ご希望であれば全額返金いたしますので、ご安心ください。

失敗が3つあります。

  • 「明日には必ず届ける」という、確認できていない納期を約束している
  • 規定(14日)を超えていないのに、返金を約束している
  • 社内メモの調査状況(追跡が止まっている)が、返信に反映されていない

指示に社内ルールが書かれていないので、AIは「丁寧で安心させる返信」という一般的な型に流れました。

改善したプロンプト

あなたはオンラインショップのサポート担当です。以下の「顧客のメール」への返信案を作成してください。

**目的**
配送の遅れに困っている顧客に、誠実に状況を伝え、次にこちらが何をするかを示す。

**制約**
- 「社内メモ」に書かれていない事実や約束(納期・返金・クーポンなど)を書かない
- 納期は、確定するまで断定しない。「確認でき次第ご連絡します」の形にする
- 返金・クーポンは「社内メモ」の規定にない限り、提案しない
- 顧客の不安と不便に共感する文を一文入れる。謝罪は1回にとどめる
- 顧客に渡してよいのは、社内メモのうち事実部分のみ(社内規定の詳細は書かない)

**出力形式**
1. 件名
2. 本文(250字程度、敬体)
3. 【社内向け】この返信案で意図的に書かなかったこと(約束を避けた点)を箇条書きで

**顧客のメール**
(ここにメールを貼る)

**社内メモ**
(ここに社内メモを貼る)

AIの出力と、人が確認した点

このプロンプトからは、次のような出力が得られます。

件名:Re: 注文した商品が届きません(注文番号 A-10482)

本文:ミナト商店です。ご連絡ありがとうございます。ご到着予定日を過ぎてもお届けできておらず、ご不安とご不便をおかけしております。申し訳ございません。配送状況を確認したところ、9月26日に配送センターに到着した記録があり、その後の状況は配送業者に調査を依頼しております。調査の結果が分かり次第、改めてご連絡いたします。

【社内向け】書かなかったこと:具体的な到着日、返金の可否、お詫びのクーポン

人が確認する点は、次のとおりです。

  • 本文の事実が、社内メモと食い違っていないか
  • 「調査結果が分かり次第」に期日がなく、顧客が不安にならないか。社内で「明日」と言えるなら、それを追記するかを判断する
  • 返金は「14日を過ぎた場合に検討」という規定があるので、顧客に伝えるかどうかは、自分で決める

「書かなかったこと」を社内向けに出力させるのが、この設計の検証部分です。 AIが約束を避けたことを、人が確認できます。

設計メモ:なぜこの書き方か

要素実例での書き方効いた理由
目的「不安な顧客に、次に何をするかを示す」返信の役割が決まり、謝罪だけの文にならない
入力メールと社内メモを別々に貼る顧客に見せてよい情報と、社内だけの情報が区別できる
制約「メモにない約束をしない」「納期は断定しない」「社内規定の詳細は書かない」AIが最もやりがちな失敗を先回りして禁止した
出力形式件名・本文・社内向けの注記返信案と、人が確認する材料を同時に得られる
検証「書かなかったこと」を出力させる約束の漏れを、人が数秒で確認できる

顧客対応では、「言ってよいこと」より「言ってはいけないこと」のリストのほうが、AIを安全に動かします。 社内ルールは、暗黙のままにせず、プロンプトに書き出してください。

毎回の入力を減らす:社内規定をAIに登録しておく

実例のプロンプトは、制約だけで十数行ありました。 これを問い合わせのたびに打つのは面倒ですし、貼り忘れた1回が、規定違反の返信につながります。

そこで、依頼の中身を2つに分けて考えます。

種類例扱い方
毎回変わらない情報返金の規定、クーポンの承認ルール、謝罪の回数、出力の型AIにあらかじめ登録しておく
毎回変わる情報今回の顧客のメール、今回の状況(追跡の状態など)依頼のたびに渡す

社内規定は、前者です。一度登録しておけば、毎回書く必要がなくなります。

登録の方法

ここでは、AIのClaudeを例にします。主な方法は2つです。 なお、CLAUDE.mdは、コマンドラインで動くClaude Codeで使われるファイルです。ブラウザで使うClaudeでは、「プロジェクト」の指示欄が近い役割を持ちます。

方法置くもの読み込まれ方
CLAUDE.md部署やチーム全体で共通のルール(トーン、個人情報の扱い、AI利用の基本方針など)そのフォルダ(プロジェクト)で作業するとき、常に読み込まれる
スキル(Skills)特定の業務だけのルール(通販サポートの規定など)依頼の内容が、スキルの説明文に当てはまるときに読み込まれる

通販サポートの規定は、部署の特定の業務のためのものなので、スキルに登録するのが向いています。 部署をまたぐ共通の方針は、CLAUDE.mdに置く、と使い分けます。

ChatGPTのカスタム指示やプロジェクト、Geminiのスキル(2026年11月にGemから切り替わる予定)など、他のAIにも、同じ考え方の仕組みがあります。 名称や設定方法はサービスごとに異なるので、使うサービスの最新の案内を確認してください。

登録するルールの例

実例で使った規定を、次のようにまとめます。 これを、CLAUDE.mdの本文、またはスキルの本文として保存します。

## サポート対応ルール(ミナト商店・架空)

### 全般
- 返信は敬体。謝罪は1回にとどめ、顧客の不安・不便に共感する一文を入れる
- 状況メモにない納期・返金・クーポンを約束しない。確定していないことは「確認でき次第ご連絡します」とする
- 返信案の後に、【社内向け】として「この返信案で意図的に書かなかったこと」を箇条書きで付ける

### 配送の遅延
- 返品・返金は、商品未着から14日を過ぎた場合に検討する。14日以内は返金を案内しない
- 配送業者に調査を依頼している間は、結果が分かり次第連絡する、と伝える

### 補償(クーポン等)
- お詫びのクーポンは、担当者の判断では提案・約束できない。上長の承認が必要
- 補償案を出すときは、「上長承認が前提の案」として社内向けにのみ示し、顧客向けの本文では確約しない

### 請求トラブル
- 二重請求などは、確認できるまで断定しない。確認できた場合の返金は、確認から5〜7営業日
- 調査結果の回答は、2営業日以内

スキルとして保存する場合は、ファイルの先頭に、名前と「どんなときに使うか」の説明を書きます。

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name: ec-support-rules
description: 通販サイト「ミナト商店」の顧客への返信文・お詫び・補償案・返金の可否を作るときに使う、社内のサポート対応ルール。
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この説明文が、AIが「今回はこのルールを使う場面だ」と判断する手がかりになります。 どんな依頼のときに使うのかを、具体的に書くのがコツです。

短い依頼でも、規定どおりの答えが返る

実例と同じ顧客のメールを使い、次の短い依頼を、Claude Codeで、3つの設定で試しました。

この顧客への返答と補償例を提示して。

【顧客のメール】
(実例と同じメール)

【状況】
配送業者の追跡は9/26の配送センター到着以降、更新なし。調査依頼中(回答は最短で明日)。
  • 設定A:規定を登録していない
  • 設定B:規定をCLAUDE.mdに登録した
  • 設定C:規定をスキルに登録した

依頼の文章は、3つとも全く同じです。 以下は、実際の出力の抜粋です(1回ずつの実行結果で、実行のたびに文章は変わります)。

設定Aの出力(規定なし):

ご提案:調査結果が出次第、明日中に次のいずれかをご案内します。1. 代替品の即時再発送(在庫を確保済みです。お届け日は確定次第お知らせします)2. ご注文のキャンセルと全額返金

お詫び:今回のご迷惑に対するお詫びとして、[補償内容]を差し上げたく存じます。

設定Cの出力(スキルに登録):

【社内向け】この返信案で意図的に書かなかったこと

  • 返金・返品の案内:商品未着から14日を過ぎた場合に検討するルールです。到着予定日(9/25)からは4日目なので、案内していません。
  • クーポンなどの補償:担当者の判断では提案も約束もできないため、顧客向け本文には入れていません。

補償案(上長承認が前提の案・社内限り):顧客へは確約しないでください。承認が出てから案内します。

3つの結果を、規定に照らして比べます。

確認項目A(規定なし)B(CLAUDE.md)C(スキル)
状況メモにない「在庫を確保済み」を書いていないか書いている(誤り)書いていない書いていない
14日以内なのに、返金を顧客に案内していないか案内している(誤り)案内していない案内していない
クーポンを、顧客向け本文で予告していないか予告している(誤り)予告していない予告していない
「書かなかったこと」の注記が付いているかなしありあり
補償案が、上長承認前提の社内向けとして示されているかなしありあり

規定を登録していないAは、短い依頼を、AI自身の常識で補ってしまいました。 BとCは、依頼が短くても、登録した規定どおりに動いています。

登録するときの注意

規定を登録すれば安心、というわけではありません。次の点に気をつけてください。

  • 今回の状況は、毎回渡す:規定は「変わらない情報」だけです。追跡の状態など、今回の事実は、依頼に添えます
  • 規定が曖昧だと、AIも曖昧に解釈する:設定Bでは、「商品未着から14日」の数え始めの日が規定にないため、AIが「起算日は要確認」と注記しました。「商品の到着予定日から14日」のように、起算点まで書いておきます
  • 規定が変わったら、AIのルールも更新する:規定が二重になるので、更新した日付をルールに書き、見直す担当を決めておきます
  • 最終確認は、人が行う:規定どおりに動くのは、書かれた範囲だけです。規定にない事態は、AIが常識で補います。「規定にないことは、要確認と書く」という一文を入れておくと安全です
  • 登録する内容にも、機密の配慮が必要:規定の中に、顧客の個人情報や、外部に出せない情報を入れないでください。AIのサービスごとに、登録内容の扱いや共有の範囲が異なるので、社内のAI利用ルールを確認します

社内規定のPDFや写真からルールを作らせる方法と、ChatGPT・Claude・Geminiそれぞれの登録手順は、生成AIに社内ルールを覚えさせるスキル設定のやり方で詳しく解説しています。

練習問題

進め方は全問共通です。

  1. 素材を読み、プロンプト設計シートの5要素を自分で埋める(AIはまだ使わない)
  2. 埋めた内容をもとにプロンプトを書き、普段使うAIで実行する
  3. 出力をルーブリックで自己採点する
  4. 解説を開き、自分の設計と比べる

問1 手順書をもとに、問い合わせに答える

状況:サービスのサポート窓口です。ログインできないという問い合わせに、公式の手順をもとに返信します。

成果物:返信メール(手順は3ステップ以内、300字以内)。

【顧客の問い合わせ】
パスワードを忘れてログインできません。どうすればいいですか。

【公式の手順(社内マニュアルより)】
1. ログイン画面の「パスワードを忘れた方はこちら」をクリックする
2. 登録済みのメールアドレスを入力して送信する
3. 届いたメールのリンク(有効期限は1時間)から、新しいパスワードを設定する
※ メールが届かない場合は、迷惑メールフォルダを確認する。それでも届かない場合は、サポートまで連絡してもらう
ルーブリック(自己採点)
  • 手順が3ステップで、マニュアルの内容と一致している
  • リンクの有効期限(1時間)が正しく含まれている
  • 「メールが届かない場合」の案内が含まれている
  • マニュアルにない情報(電話番号、別の方法など)を追加していない
  • 300字以内である(実際に数えた)
よくある失敗と解説

素材が整っているので、この問題は簡単です。 ただし、AIは親切心から、マニュアルにない「アプリの再インストールをお試しください」のような一般論を足すことがあります。

制約に「マニュアルに書かれた手順・注意のみを使う。書かれていない対処法は書かない」と入れます。 文字数の指定は守られないことがあるので、出力後に数える、または「超えていれば短縮して」と続けて頼みます。

問2 怒っている顧客に、未確定のことを断定せずに返信する

状況:請求に関する問い合わせです。顧客は怒っており、事実関係はまだ調査中です。

成果物:返信案(件名と本文)と、社内向けの「約束を避けた点」のリスト。

【顧客のメール】
件名:二重で請求されています!

9月分の利用料が2回引き落とされていました。1回分は12,800円です。
どういうことですか。すぐ返金してください。今後も使うか考えます。

【社内メモ】
- 請求システムで確認中。二重請求かどうかは未確定
- 二重請求が確認できた場合の返金は、確認から5〜7営業日で処理する(規定)
- 調査結果の回答は、2営業日以内
ルーブリック(自己採点)
  • 「二重請求です」「こちらのミスです」など、未確定の事実を断定していない
  • 「すぐ返金します」ではなく、「確認できた場合は返金手続きをする」という条件つきの書き方になっている
  • 返金の目安(5〜7営業日)と、調査の回答期日(2営業日以内)が正確に書かれている
  • 顧客の怒りと不安に共感する文が一文ある。謝罪が1回にとどまっている
  • 社内向けの注記に、約束を避けた点が書かれている
よくある失敗と解説

この問題の難所は、顧客の怒りに合わせて、AIが確定していない事実を認めてしまうことです。 「二重に請求してしまい、申し訳ございません」と書くと、調査の結果が二重請求でなかった場合に、取り消しができません。

使える型は2つです。

  • 制約に「事実が確定するまでは、『確認中』『確認できた場合』という表現を使う」と書く
  • 出力形式に「約束を避けた点」の注記を入れ、人が確認できる状態にする

もう1点。「返金の日数」を伝えるのは、二重請求が確認できた後に有効になる情報です。 条件つきの書き方(確認できた場合は)にしないと、返金が確定したように読まれます。

問3 問い合わせを分類し、FAQの種を見つける

状況:今週届いた問い合わせ10件を、分類してFAQ化する候補を探します。

成果物:分類表(カテゴリ・緊急度・理由)と、FAQ候補のリスト。

1. 注文した商品がまだ届かない
2. 請求書の宛名を変更したい
3. ログインできない。パスワードは合っているはず
4. 領収書は発行できますか
5. 商品が壊れて届いた。すぐ交換してほしい
6. 二重に引き落とされている
7. 退会の手続きを教えて
8. 新商品の発売予定はありますか
9. アプリの通知が来ない
10. 配送先の住所を変更したい(まだ発送前)
ルーブリック(自己採点)
  • 10件すべてが表に入っている(漏れ・重複がない)
  • カテゴリを事前に定義し、その定義に沿って分類した(例:配送/請求/使い方/その他)
  • 「破損」「二重請求」「発送前の住所変更」が、緊急度「高」になっている
  • 緊急度の判断基準(時間の制約・金銭の被害など)が、理由の欄に書かれている
  • FAQ候補が、同じカテゴリの質問から抽出されている(1件しかないものを候補にしていない)
よくある失敗と解説

分類は、AIが得意な作業ですが、基準を書かないと、実行するたびに結果がばらつきます。 「カテゴリは配送・請求・使い方・その他の4つ」「緊急度は、時間の制約または金銭の被害があれば高」のように、基準を先に固定します。

もう一つのコツは、出力を表にすることです。 表にすれば、10件が漏れなく入っているかを、行数で確認できます。

FAQの候補は「頻度」で選びます。 1件しかない質問は、まだFAQにする段階ではありません。 「AIに、分類したうえで、2件以上ある質問だけをFAQ候補として挙げさせる」と指示すれば、基準が明確になります。

問4 AIが書いた返信案の、約束の誤りを見抜く

状況:後輩がAIに作らせた返信案が、あなたのところに回ってきました。送信前のチェックを頼まれています。

成果物:誤りの指摘リストと、AIに修正させるためのプロンプト。

前提の情報:

【顧客のメール】
9月分の利用料が2回引き落とされていました。すぐ返金してください。

【社内メモ】
- 二重請求かどうかは調査中で、未確定
- 二重請求が確認できた場合の返金は、確認から5〜7営業日
- 調査結果の回答は2営業日以内

AIが作った返信案:

このたびは弊社の請求ミスにより、ご迷惑をおかけし申し訳ございません。
明日中に全額を返金いたします。
なお、マイページの「請求履歴」から、ご自身でも取り消し手続きができますので、あわせてご利用ください。
ルーブリック(自己採点)
  • 「弊社の請求ミス」は、未確定の事実を断定した誤りだと指摘できた
  • 「明日中に全額を返金」は、規定(5〜7営業日)と食い違う誤りだと指摘できた
  • 「マイページの請求履歴から取り消し」は、社内メモに根拠がない情報だと指摘できた
  • 修正のプロンプトに、前提の情報と返信案の両方を渡し、根拠のない記述を列挙させる指示を入れた
  • 修正後の返信案も、人が社内メモと突き合わせて確認する、と設計した
よくある失敗と解説

誤りは3つあります。

  • 未確定の原因を断定した(請求ミス)
  • 規定と違う期日を約束した(明日中)
  • 存在が確認できない機能を案内した(マイページからの取り消し)

3つ目は特に危険です。 顧客が実際にその画面を探して見つからなければ、二次のクレームになります。 AIは、それらしい機能名を、もっともらしく作ってしまうことがあります。

修正は、次のように根拠を引用させる形にします。

以下の「前提の情報」と「返信案」を突き合わせ、返信案の記述のうち、前提の情報に根拠がないもの・前提と食い違うものをすべて列挙してください。

**制約**
- 各項目について、根拠となる前提の一文を引用すること
- 根拠が見つからない場合は「根拠なし」と書くこと
- 修正案は、列挙が終わってから別の見出しで示すこと

ここで、最終確認を人が行うことは、第1章と変わりません。

プロンプト設計の確認問題

ここまでの内容を、選択式で確認しましょう。

問1. 顧客への返信文をAIに作らせたところ、社内で決まっていない返金を約束する内容になっていた。主な原因として最も適切なものはどれか。

問2. 調査中で原因が確定していない請求トラブルについて、顧客へ返信する際の表現として最も適切なものはどれか。

問3. 10件の問い合わせをAIに分類させる際、実行のたびに結果がばらつくのを防ぐ方法として最も適切なものはどれか。

問4. AIが書いた返信案に「マイページの請求履歴から、ご自身で取り消せます」とあったが、社内メモにはその機能の記載がなかった。送信前の対応として最も適切なものはどれか。

問5. サポートの社内規定をAIに登録して、短い依頼でも規定どおりの返信案が出るようにするときの考え方として、最も適切なものはどれか。

自分の職場に置き換える

この章の型を、自分の仕事に当てはめます。

  1. 直近で対応した(または想像した)問い合わせを1つ選ぶ
  2. 顧客名・注文番号・連絡先は、伏せ字にする。使わない場合は、架空のケースを作る
  3. 「言ってよいこと」ではなく、「言ってはいけないこと」を5項目書き出す(納期・返金・責任の認定など)
  4. その5項目を制約に入れて、返信案をAIに作らせ、「約束を避けた点」の出力を確認する
  5. 毎回使うと感じた制約を、AIに登録する規定(CLAUDE.mdやスキルなど)にまとめ、短い依頼だけで同じ品質の返信案が出るかを試す

仕上げに、S.E.L.F.ループの「F(Forge it)」として、AIに「この返信案の弱点を3つ挙げて」と頼み、自分の気づきとの差を確かめます。

この章のまとめ

  • 顧客対応の依頼では、「言ってはいけないこと」を制約として書き出す
  • AIは、確定していない事実や、存在しない機能をもっともらしく書く。「メモにない約束をしない」を必ず入れる
  • 出力に「約束を避けた点」の注記を付けさせると、人の確認が速くなる
  • 分類は、カテゴリと緊急度の基準を先に固定し、表で出力させる
  • 未確定の事実は、条件つきの表現(確認できた場合は)にする
  • 毎回変わらない社内規定は、CLAUDE.mdやスキルなどでAIに登録する。今回の状況だけを、依頼のたびに渡せばよい
  • 登録する規定は、起算点まで具体的に書き、規定の更新に合わせてAIのルールも更新する

次の章では、資料・企画書づくりを題材に、「構成を先に決める」という、大きな成果物を作るときの進め方を練習します。