この章で学ぶこと
会議のあと、走り書きのメモを議事録にまとめる仕事は、多くの職場で「誰かがやらなければならない」作業です。 1時間の会議なら、整えるだけで30分かかることも珍しくありません。
この章では、その作業を生成AIに手伝わせながら、プロンプトを「投げる前に設計する」練習をします。 扱う力は次の3つです。
- 目的・入力・制約・出力形式・検証の5要素で、依頼を組み立てる
- 素材にない情報をAIに補わせない指示の書き方
- 出力を鵜呑みにせず、元の素材と突き合わせて検証する
本コースは実務練習用の教材です。AIの出力は必ず人が検証してください。 また、この章の素材はすべて架空のデータです。
実際の職場で練習するときは、社外秘・個人情報をそのまま貼らないこと。 社内のAI利用ルールを確認し、伏せ字やダミーに置き換えてから使います。
このユースケースが起きる場面
週次の定例会議、取引先との打ち合わせ、プロジェクトの立ち上げ。 議事録の目的は「参加していない人にも、決まったこと・決まっていないこと・次に誰が何をするかが伝わる」ことです。
ところが会議中のメモは、こうなりがちです。
- 雑談と業務の話が混ざっている
- 「〜という方向」「〜頃?」のように、決まったのか曖昧な発言がある
- 担当者や期限が抜けている
これを整えるとき、AIは強力な助手になります。 一方で、担当者や期限を勝手に補ってしまうという、議事録にとって致命的な失敗も起こします。 だからこそ、この章の練習になります。
プロンプト設計シート
この章のすべての問題で、AIに投げる前に次の5要素を自分で埋めます。 紙でもメモ帳でも構いません。
**目的**:誰に・何のために・何を作るか
**入力**:AIに渡す素材は何か(機密は伏せたか)
**制約**:やってはいけないこと・守るルール
**出力形式**:表・箇条書き・文字数など
**検証**:出力が正しいか、何と突き合わせるか「ChatGPTに聞いてみる」の前に、この5行が埋まっているかどうか。 これが、対話するだけの練習との違いです。
実例:整っていないメモを議事録にする
まず、1つの課題を最後まで解いてみせます。 練習問題を解く前に、流れをつかんでください。
状況と素材
あなたは総務部の担当者です。 社内ポータルの移行に関する打ち合わせが終わり、上司から「参加していない部長にも共有できる議事録にしておいて」と頼まれました。 手元にあるのは次の走り書きです。
【メモ】ポータル移行 打ち合わせ 9/24 10:00〜10:45
参加:田中(情シス)、佐藤(総務)、鈴木(営業企画)、山本(外部ベンダー)
- 冒頭、山本さんが台風の影響で遅れて到着。少し雑談
- 旧ポータルは今年12月末でサポート終了。移行先は新ポータルで進める方向。田中さんが「基本はそれで決まりでいい」と言っていた
- 移行対象:ワークフロー申請とお知らせは移行、過去の掲示板は移行しない(佐藤さん了承)
- 社内周知の時期は10月中旬頃? 総務で文案を作る、と佐藤さんが言ったが期限は決まらず
- 営業企画から、モバイル対応が必須かどうか質問。山本さん「対応はできるが追加費用がかかる」。見積は10/1までにお願いした
- 権限設定の方針は未定。部長以上のみ閲覧可とする案と、全員閲覧の案。持ち帰り
- 誰かが昼のランチの話。駅前の新しい定食屋が良いらしい
- 次回は10/8 同じ時間このメモには、議事録の難しさが詰まっています。
- 決まったこと(移行対象の範囲)
- 決まっていないこと(周知時期・権限・モバイル対応)
- 担当と期限が揃っているもの(山本さんの見積)と揃っていないもの(佐藤さんの文案)
- 雑談(ランチの話)
悪い指示とその失敗
最初にやりがちなのは、これです。
この会議メモを要約して。返ってくるのは、たとえば次のような文章です。
社内ポータルの移行について打ち合わせを行い、新ポータルへの移行が決定した。周知は10月中旬に実施予定で、佐藤さんが文案を10月上旬までに作成する。モバイル対応は追加費用がかかる。ランチの話題も出た。
失敗が3つあります。
- 「10月中旬頃?」という曖昧な発言が「実施予定」と断定されている
- 元メモにない「10月上旬まで」という期限が作られている
- 雑談が混ざっている
指示に「目的」も「制約」も「出力形式」もないので、AIは自分で判断し、もっともらしく補ってしまったのです。
改善したプロンプト
5要素で組み立て直します。
あなたは社内の会議記録を整理する事務担当です。以下の「会議メモ」から、共有用の議事録を作成してください。
**目的**
会議に参加していない部長にも、決まったこと・決まっていないこと・次に誰が何をするかが一目で分かる議事録を作る。
**制約**
- メモに書かれていない事実(担当者・期限・金額など)を補わない。不明な項目は「未定」と書く
- 雑談や業務に関係のない話題は含めない
- 断定できない発言(「〜という方向」「〜頃?」)は「決定事項」に入れず、「未決事項」に入れる
**出力形式**
1. 決定事項(箇条書き)
2. 未決事項(「内容」「論点」の2列の表)
3. 担当・期限(「担当者」「やること」「期限」の3列の表)
4. 最後に、元メモと突き合わせるための確認ポイントを3つ
**会議メモ**
(ここにメモを貼る)AIの出力と、人が確認した点
このプロンプトからは、次のような出力が得られます。
決定事項
- 旧ポータルは12月末でサポート終了のため、新ポータルへ移行する
- 移行対象はワークフロー申請とお知らせ。過去の掲示板は移行しない
- 次回は10/8(同じ時間)
未決事項:社内周知の時期(10月中旬頃の案)/モバイル対応の要否(追加費用あり)/権限設定(部長以上のみ閲覧 or 全員閲覧)
担当・期限:山本|モバイル対応の見積提出|10/1 佐藤|社内周知の文案作成|未定
前の失敗がすべて消えています。 それでも、人が確認するべき点が残っています。
- 「新ポータルへ移行する」を決定事項にしてよいか。メモでは「進める方向」で、了承しているのは田中さんの発言のみ。会議の場の合意かどうかは、AIには判断できないので、必要なら参加者に確認する
- 佐藤さんの期限が「未定」になっているか(補われていないか)
- ランチの話が消えているか
議事録に責任を持つのはAIではなく、あなたです。
設計メモ:なぜこの書き方か
| 要素 | 実例での書き方 | 効いた理由 |
|---|---|---|
| 目的 | 「参加していない部長にも」 | 誰が読むかが決まると、何を残し何を捨てるかの基準ができる |
| 入力 | 「会議メモ」を末尾に区切って貼る | 指示と素材が混ざらない |
| 制約 | 「補わない」「未定と書く」「曖昧な発言は未決へ」 | AIが起こしやすい失敗を、先回りして禁止した |
| 出力形式 | 決定/未決/担当・期限の3区分 | 議事録として必要な情報の抜けが見つけやすい |
| 検証 | 確認ポイントを3つ出させる | 人が元メモと突き合わせる手がかりが増える |
制約は「こうしてほしい」より「これは絶対にするな」のほうが効く場面が多くあります。 AIが起こしやすい失敗を予想し、あらかじめ書いておくのがコツです。
練習問題
ここからは自分で解きます。進め方は全問共通です。
- 素材を読み、プロンプト設計シートの5要素を自分で埋める(AIはまだ使わない)
- 埋めた内容をもとにプロンプトを書き、ChatGPT・Claude・Geminiなど普段使うAIで実行する
- 出力をルーブリックで自己採点する
- 解説を開き、自分の設計と比べる
模範プロンプトの丸写しでは力がつきません。先に解説を開かないようにしてください。
問1 整ったメモから共有用の議事録を作る
状況:営業部の週次ミーティングの議事録係です。部内メンバー全員に共有します。
成果物:決定事項・担当・期限の3列の表と、共有メール1通(150字程度)。
【営業部 週次ミーティング 10/6】出席:課長、山田、井上、中村
1. 10月の新規訪問目標は各自12件で決定
2. 展示会のブース担当は井上さんに決定。10/16までに配布資料の案を出す
3. 顧客リストの更新は中村さんが担当、10/10まで
4. 次回は10/13ルーブリック(自己採点)
- 決定事項が3件とも表に入っている
- 担当者と期限が素材どおり(井上 10/16、中村 10/10)で、追加・変更がない
- 目標「12件」「次回10/13」など数字・日付が正しい
- メールに、宛先の想定(部内メンバー)と依頼事項が含まれる
- プロンプトに「素材にない情報を補わない」旨の制約を書いた
よくある失敗と解説
素材が整っているので、「これを表にして」だけでも動きます。 ここで差がつくのは、制約を書いたかどうかです。 整った素材でも、AIは「課長」の担当を推測して補うことがあります。
模範の考え方は、実例の5要素をそのまま使うことです。 目的を「部内メンバー全員に共有」、出力形式を「3列の表+150字のメール」と決め、制約に「メモにない情報は補わない」を入れます。 簡単な問題ほど、型どおりに書く習慣をつけてください。
問2 曖昧で不足の多いメモを整理する
状況:新入社員研修の準備担当です。上司にメモを見せる前に、状況を整理しておきたいと考えています。
成果物:「決まっていること」「決まっていないこと」「確認が必要な質問(誰に聞くか付き)」の3区分。
【新入社員研修 準備メモ】
- 研修は来月からの方向? 人事の意見待ち
- 会場は本社の会議室Bで一旦OK(空いていれば)
- 講師は外部に頼むか社内でやるか、まだ
- 資料はなるべく早めに、と言われた
- 誰か、去年の研修アンケートを探しておいてほしい
- 予算は昨年並み…だったかなルーブリック(自己採点)
- 「決まっていること」が0〜1件に絞られ、「会場」は条件つき(空いていれば)と書かれている
- 「予算は昨年並み」を確定情報として扱っていない(要確認になっている)
- 「誰か」の担当者をAIが補っていない(担当未定のまま)
- 確認質問に「誰に聞くか」が付いている
- 質問が具体的で、そのまま送れる(「いつからか」「誰が決めるか」など)
よくある失敗と解説
このメモはほとんど何も決まっていません。 AIに「整理して」と頼むと、きれいな表にするために、決まっていないことまで決まったように書いてしまいがちです。
ここで使える型が2つあります。
- 制約に「確定していない事項は決定事項に入れない。条件つきのものは条件を残す」と書く
- 出力形式に「不足している情報は、誰に何を聞くべきかの質問にする」と書く
AIを「整える役」ではなく「足りないものを洗い出す役」として使う発想です。 「不明な点があれば、出力の前に私に質問してください」と最初に頼む方法もあります。
問3 社外向けの制約つきで議事録とお礼メールを作る
状況:取引先B社との打ち合わせのあと、B社にも共有できる議事録とお礼メールを作ります。手元のメモには、社内だけで使う情報が混ざっています。
成果物:B社に共有できる議事録(決まったことは3点以内)と、お礼メール(200字以内、敬体)。
【B社との販促連携 打ち合わせ 10/2 15:00】
出席:当社 高橋・伊藤/B社 渡辺様・小林様
- 販促キャンペーンは11月1日開始で合意
- 当社の原価率は約62%なので、B社への卸値は上代の70%以内で提示したい(社内メモ:これは先方に言わない)
- 競合のC社が先月同様の企画を出したので、差別化として「限定パッケージ」を付ける案
- B社側の窓口は渡辺様。携帯は090-0000-0000(緊急時のみ)
- チラシの入稿データは10/20までに当社(伊藤)からB社へ送付
- 先方から「決裁は部長の確認後」との話。回答は10/9までにいただくルーブリック(自己採点)
- 原価率・卸値の社内方針が、議事録にもメールにも含まれていない
- 競合C社の名前が含まれていない
- 渡辺様の携帯番号が含まれていない
- 決まったことが3点以内で、正しい(開始11/1、入稿10/20・伊藤、回答10/9・B社)
- お礼メールが200字以内である(文字数を実際に数えた)
- AIにメモを貼る前に、社外秘の扱いを考える工程を設計シートに入れた
よくある失敗と解説
この問題の難所は2つです。
1つ目は、制約の「除外ルール」を具体的に書くこと。 「社外に出せない情報は除いて」では、AIはどれが社外秘か判断できません。 「原価・卸値・社内の方針、競合他社名、個人の連絡先は含めない」のように、種類を挙げます。
2つ目は、文字数の指定は守られないことがあること。 「200字以内」と書いても超えることがあります。 出力後に自分で数えるか、AIに「文字数を数えて、超えていれば書き直して」と続けて頼みます。これが検証の設計です。
もう一つ大事な点があります。 この素材は架空ですが、本物の社外秘メモを外部のAIに貼ってよいかは、社内のルール次第です。 実務なら、原価率や電話番号を貼る前に伏せ字にする手順を、設計シートの「入力」に入れます。 「AIが漏らさないようにする」より「最初から渡さない」ほうが確実です。
問4 AIが書いた議事録の誤りを見抜く
状況:同僚がAIに作らせた議事録が、あなたのところに回ってきました。共有前のチェックを頼まれています。
成果物:誤りの指摘リストと、AIに修正させるためのプロンプト。
元のメモ:
【システム更改 打ち合わせ 10/3】出席:森、大野、清水
- 現行サーバは来年3月で保守終了。更改は必須
- 移行先はクラウドとオンプレの2案。どちらにするかは次回までに大野さんが比較表を作る
- 予算枠は来週の経営会議で確認(森さん)
- 新システムの稼働時期は、来年4月か5月ごろAIが作った議事録:
決定事項
・現行サーバは来年3月で保守終了のため更改する
・移行先はクラウドに決定
・新システムは来年4月に稼働開始
担当・期限
大野|比較表の作成|10/10
森|予算枠の確認|来週の経営会議ルーブリック(自己採点)
- 「クラウドに決定」は誤り(元は2案で未決)と指摘できた
- 「来年4月に稼働開始」は誤り(元は4月か5月ごろ)と指摘できた
- 「10/10」は誤り(元は「次回まで」で日付がない)と指摘できた
- 修正プロンプトに、元メモと議事録の両方を渡し、食い違いを列挙させる指示を入れた
- 修正プロンプトに「元メモのどの部分が根拠か引用して示す」指示を入れた
- 修正後の出力も、最後は自分の目で元メモと突き合わせる、と設計した
よくある失敗と解説
誤りは3つあります。
- 未決を決定にした(クラウドに決定)
- 幅のある表現を1つに絞った(4月か5月ごろ→4月)
- 期限の日付を作った(次回まで→10/10)
どれも、もっともらしく、誤りに気づきにくい形です。 ここから読み取れるのは、AIの誤りは「間違った」ではなく「補った」の形で出るということです。
修正の依頼は、「間違いを直して」ではなく、次のように根拠を出させる形にします。
以下の「元メモ」と「議事録」を突き合わせ、議事録の記述のうち、元メモに根拠がないもの・元メモと食い違うものをすべて列挙してください。
**制約**
- 各項目について、根拠となる元メモの一文を引用すること
- 根拠が見つからない場合は「根拠なし」と書くことただし、これで検証が終わるわけではありません。 AI自身の「確認しました」も間違えることがあります。最後の突き合わせは、人が行います。
プロンプト設計の確認問題
ここまでの内容を、選択式で確認しましょう。
問1. 「この会議メモを要約して」という依頼だけでは、議事録として使える出力になりにくい。最も大きな理由はどれか。
問2. AIが、元メモにない担当者や期限を勝手に補ってしまうのを防ぐために、プロンプトに入れる指示として最も効果的なものはどれか。
問3. 会議メモに「社内周知の時期は10月中旬頃?」とあった。議事録での扱いとして最も適切なものはどれか。
問4. AIが作成した議事録を社内で共有する前の対応として、最も適切なものはどれか。
繰り返し使う制約は、AIに登録して短くする
この章のプロンプトは、制約を毎回書き込む形で練習しました。 同じ業務を繰り返すなら、変わらない制約は、AIにあらかじめ登録しておくことで、依頼を短くできます。
この章で登録しておくとよいのは、議事録の出力の型、「メモにない情報は補わない」「不明は未定と書く」「機密は伏せる」といった制約です。 ChatGPT・Claude・Geminiでの登録手順は、生成AIに社内ルールを覚えさせるスキル設定のやり方で解説しています。 登録しても、最終確認は人が行うことに変わりはありません。
自分の職場に置き換える
最後に、この章の型を自分の仕事に当てはめます。
- 直近で参加した会議(または想像した会議)を1つ選ぶ
- 実際のメモを使う場合は、社名・人名・金額を伏せ字にする。使わない場合は、架空のメモを自分で作る
- プロンプト設計シートの5要素を埋め、AIに実行させる
- ルーブリックを自分で作る(この章の「担当者を補っていないか」などを参考に、5項目)
仕上げに、S.E.L.F.ループの「F(Forge it)」として、この章で学んだ5要素をAIに説明し直してみてください。 「議事録づくりで大切なことを、新入社員に教えるつもりで解説して」と頼み、自分の理解とのズレを確かめます。 S.E.L.F.ループの詳しい使い方は、コラム記事を参照してください。
この章のまとめ
- 生成AIに議事録を作らせるときは、目的・入力・制約・出力形式・検証の5要素で、投げる前に設計する
- AIの誤りは「補う」形で出る。「補わない」「未定と書く」を制約に入れる
- 曖昧な発言は、決定事項ではなく未決事項に入れる
- 制約は「絶対にするな」を具体的に書く。文字数など守られにくい指示は、出力後に検証する
- 社外秘・個人情報は、AIに貼る前に伏せ字にする
- 最終責任は人にある。AIの出力は、必ず元の素材と突き合わせる
次の章では、問い合わせ対応とFAQ作成を題材に、「相手の感情」と「社内ルール」を含む依頼の組み立て方を練習します。