この章で学ぶこと
この章が扱う中分類「経営戦略・デジタル戦略」(55語)は、PD-Mコース第2章と同名です。ただしPD-Sではキーワード数が81語から55語に絞られ、SWOT分析のような経営戦略フレームワーク自体は対象外になっています。PD-Sが問うのは「経営戦略をどう情報システムの要件に落とし込むか」というシステム開発者の視点で、DX戦略の基本理解から、システム化構想・計画の立案、要件定義、調達契約、エンタープライズアーキテクチャまでを扱います。あわせて中分類「デジタルサービス・デジタルツール」(32語)で、業種別のデジタルツールの見取り図も押さえます。
DX戦略と情報システム戦略の基本
システムを作る前提として、まず組織が目指すDX戦略を理解する必要があります。ここではデータの有効活用と最新技術の活用(生成AI など)がシステム開発者にとって特に重要な視点です。経営ビジョンとDX戦略の連動・As is - To beギャップの定量把握と見直し・企業文化への定着というDX経営に求められる3つの視点と、それを具体化したDX経営に求められる5つの柱はPD-Mコースと共通の内容ですが、PD-Sではこれを踏まえて実際に経営課題解決・業務革新を実現する業務モデル・ビジネスモデルをシステムに落とし込む立場で理解します。
投資判断では投資効果を意識しつつ、コンプライアンス・リスクマネジメント・情報セキュリティという3つの制約条件を満たす必要があります。これらを実現する土台になるのがITガバナンスの実現と経営戦略との整合性で、システムが経営戦略から逸脱しないよう統制する視点です。
扱う用語(精選・15語)
- DX戦略/データの有効活用/最新技術の活用(生成AI など)
- DX経営に求められる3つの視点(経営ビジョンとDX戦略の連動・As is - To beギャップの定量把握と見直し・企業文化への定着)
- DX経営に求められる5つの柱
- 経営課題解決/業務革新/業務モデル/ビジネスモデル/投資効果
- コンプライアンス/リスクマネジメント/情報セキュリティ
- ITガバナンスの実現/経営戦略との整合性
システム化構想・計画の立案
経営戦略を具体的なシステムに落とし込む最初のステップが情報システムのあるべき姿(To-beモデル)の設計です。現状からのギャップを埋めるため組織や業務の変更方針を定め、社内外利害関係者との調整と合意を進めます。自社だけで完結させない外部資源の活用も検討します。
ここからシステム化構想の立案(何を実現したいか)とシステム化計画の立案(どう実現するか)へと具体化し、全社横断の全体システム化計画と個別プロジェクト単位の個別システム化計画に分けて、それぞれシステム化の目的とシステム適用範囲を明確にします。業務モデルの作成とプロジェクト推進体制の構築を経て、投資額を何年で回収できるか見るPBP法や将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くDCF法などの投資の意思決定法を用いて開発投資対効果を算定します。並行してリスク分析の対象を洗い出し、リスクの発生頻度・影響・範囲を評価した上でリスク対応の方針を決定します。
扱う用語(精選・17語)
- 情報システムのあるべき姿(To-beモデル)/組織や業務の変更方針/社内外利害関係者との調整と合意/外部資源の活用
- システム化構想の立案/システム化計画の立案/全体システム化計画/個別システム化計画/システム化の目的/システム適用範囲
- 業務モデルの作成/プロジェクト推進体制
- 投資の意思決定法(PBP法・DCF法 など)/開発投資対効果
- リスク分析の対象/リスクの発生頻度・影響・範囲/リスク対応
仕組みを理解する: PD-MとPD-Sで同じ中分類名でも扱う中身が違う理由
PD-Mコース第2章とPD-Sコース第1章はどちらも「経営戦略・デジタル戦略」という中分類名ですが、対象者像の違いがそのまま扱う範囲の違いになっています。PD-M(マネジメント層)は「どの戦略を選ぶか」という意思決定そのものを問われるため、SWOT分析やVRIO分析といった経営戦略フレームワーク自体が出題範囲に含まれます。一方PD-S(実装層)は、経営層が決めた戦略を前提に「それをどうシステム要件に翻訳するか」という実装の視点が問われるため、フレームワークそのものは対象外で、要件定義・調達契約・エンタープライズアーキテクチャに絞られています。両方を受験する場合は、PD-Mコースで戦略選定の視点を、PD-Sコースでそれをシステムに落とし込む視点を補い合うと理解が立体的になります。
要件定義と調達・契約
システム化計画を実際のシステムに落とし込む最初の関門が要件定義です。何を実現したいかを聞き取る要求分析から、業務の流れとして求める内容を定める業務要件定義、システムが備えるべき機能を定める機能要件定義、機能以外の品質を定める非機能要件定義(その代表例である性能要件)へと具体化します。整理の手法としては、データの流れを図示するDFD、オブジェクトの関係を図示するUML、データ構造を起点に設計するDOA(データ中心アプローチ)、業務上の出来事の連鎖から要件を洗い出すイベントストーミングという要件定義の手法を使い分けます。
要件が固まったら、委託先を選ぶ調達選定と契約締結に進みます。契約金額の決め方には、決まった金額で発注する定額契約、実費に応じて支払う実費償還契約、稼働時間と資材費に応じて支払うタイムアンドマテリアル契約があります。ライセンス関連では、使用実績に応じて対価を払うランニングロイヤリティ、売上の一部を配分するレベニューシェア、ライセンスをさらに第三者に許諾するサブライセンス、改良技術を元の権利者に還元するグラントバックも実務用語として押さえます。
扱う用語(精選・15語)
- 要求分析/業務要件定義/機能要件定義/非機能要件定義/性能要件
- 要件定義の手法(DFD・UML・DOA(データ中心アプローチ)・イベントストーミング)
- 調達選定/契約締結
- 定額契約/実費償還契約/タイムアンドマテリアル契約
- ランニングロイヤリティ/レベニューシェア/サブライセンス/グラントバック
エンタープライズアーキテクチャ
複雑化した組織と情報システムの全体像を複数の切り口で整理する設計思想がアーキテクチャモデルです。組織構造や業務プロセスを表すビジネスアーキテクチャ、データ構造を表すデータアーキテクチャ、業務を支えるアプリケーション構成を表すアプリケーションアーキテクチャ、それらを支える基盤技術を表すテクノロジアーキテクチャという4層構造で捉えます。
この4層を体系立てて整理する古典的な方法論がザックマンフレームワークで、より実務で広く使われているのが、アーキテクチャを段階的に開発・運用するための参照モデルと標準的な進め方を提供するTOGAFです。PD-Sの実装者視点では、この後の章で扱う個別技術(クラウド・ネットワーク・DB)が、この4層のどこに位置づくかを意識すると全体像がつながります。例えば次章で学ぶクラウド・システム基盤は主にテクノロジアーキテクチャ層、第4章で学ぶデータベースはデータアーキテクチャ層に対応します。
扱う用語(精選・8語)
- アーキテクチャモデル/ビジネスアーキテクチャ/データアーキテクチャ/アプリケーションアーキテクチャ/テクノロジアーキテクチャ
- ザックマンフレームワーク/参照モデル/TOGAF
業務支援・行政デジタルツール
業種を問わず使われる業務支援ツールとしては、需要に応じて供給を最適化する効率的消費者対応(ECR)、人材の採用から育成までを管理する人的資本管理(HCM)、設備・機器などの資産を管理する企業資産管理(EAM)、在庫を管理する在庫管理システム(WMS)、輸送・配送を管理する輸配送管理システム(TMS)があります。経営状況を可視化する経営ダッシュボード、社内外の情報を横断検索するエンタープライズサーチ、社内情報への入口となる企業内情報ポータル(EIP)も代表的なツールです。
行政分野では、行政サービスをデジタル化するデジタルガバメント、その基盤となるガバメントクラウド、自治体窓口をデジタル化する電子自治体、公共調達をデジタル化する電子調達システムがあります。
扱う用語(精選・12語)
- 効率的消費者対応(ECR)/人的資本管理(HCM)/企業資産管理(EAM)/在庫管理システム(WMS)/輸配送管理システム(TMS)
- 経営ダッシュボード/エンタープライズサーチ/企業内情報ポータル(EIP)
- デジタルガバメント/ガバメントクラウド/電子自治体/電子調達システム
製造業デジタルツールとフィンテック
製造業に特化したデジタルツールとしては、後工程が前工程に必要な分だけ引き取るかんばん方式、無駄を徹底的に排除するリーン生産方式、少人数のチームで多品種を生産するセル生産方式、必要なものを必要なときに必要な分だけ作るJIT(ジャストインタイム)という生産方式の考え方を土台に、工作機械を自動制御するNC(数値制御)、必要な資材の量とタイミングを計画する資材所要量計画(MRP)、生産ラインを柔軟に組み替えられるフレキシブル生産システム(FMS)、製造現場の実行管理を担うMES、建築・土木分野の3次元モデルを扱うBIM/CIM、製品情報を一元管理するPDM、プロジェクト全体を管理するPMSがあります。
金融分野に目を向けると、電子決済システム、非金融事業者がサービスに金融機能を組み込む組み込み型金融(Embedded Finance)、口座間で資金を電子的に移動するEFT、暗号資産(仮想通貨)、中央銀行が発行するデジタル通貨である中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)、電子的に発生・譲渡される電子記録債権が代表例です。オフィス業務のデジタル化では、場所を選ばない働き方を支えるデジタルワークプレイス、業務の流れを電子化するワークフローシステム、文書・コンテンツを一元管理するコンテンツ管理システム(CMS)を押さえます。
扱う用語(精選・20語)
- かんばん方式/リーン生産方式/セル生産方式/JIT(ジャストインタイム)
- NC(数値制御)/資材所要量計画(MRP)/フレキシブル生産システム(FMS)/MES/BIM/CIM/PDM/PMS
- 電子決済システム/組み込み型金融(Embedded Finance)/EFT/暗号資産(仮想通貨)/中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)/電子記録債権
- デジタルワークプレイス/ワークフローシステム/コンテンツ管理システム(CMS)
AIで学ぶ
ここまでの用語は、ChatGPTやClaudeなどの生成AIに以下のプロンプトを投げかけると、比較表つきでさらに深く掘り下げて学習できます。コピーして使ってみましょう。
あなたはプロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験の講師です。「ビジネス・デジタル戦略とデジタルツール活用」の範囲について、以下の用語を初学者向けに**関連づけながら**説明してください(単体の丸暗記より、用語同士のつながりを理解したほうが記憶に定着しやすく、試験本番で紛らわしい選択肢を見分ける力もつくためです)。用語同士の違いが分かる**比較表**を最後に付けてください。
【DX戦略と情報システム戦略】DX戦略、データの有効活用、DX経営に求められる3つの視点、DX経営に求められる5つの柱、経営課題解決、業務革新、ITガバナンスの実現、経営戦略との整合性
【システム化構想・計画】情報システムのあるべき姿(To-beモデル)、システム化構想の立案、システム化計画の立案、全体システム化計画、個別システム化計画、投資の意思決定法(PBP法・DCF法)、リスク分析の対象、リスク対応
【要件定義と調達契約】要求分析、業務要件定義、機能要件定義、非機能要件定義、要件定義の手法(DFD・UML・DOA・イベントストーミング)、定額契約、実費償還契約、タイムアンドマテリアル契約、レベニューシェア
【エンタープライズアーキテクチャ】アーキテクチャモデル、ビジネスアーキテクチャ、データアーキテクチャ、アプリケーションアーキテクチャ、テクノロジアーキテクチャ、ザックマンフレームワーク、TOGAF
【業務支援・行政デジタルツール】人的資本管理(HCM)、企業資産管理(EAM)、在庫管理システム(WMS)、経営ダッシュボード、デジタルガバメント、ガバメントクラウド
【製造業・フィンテック】かんばん方式、JIT、資材所要量計画(MRP)、MES、BIM/CIM、組み込み型金融、CBDC、コンテンツ管理システム(CMS)AIに用語リストだけを渡すと、辞書をそのまま読み上げるような無機質な説明が返ってくることがあります。このプロンプトが役割(試験の講師)・関連づけの指示・出力形式(比較表)の3つを指定しているのはそれを避けるためです。特に業種別デジタルツールは初見の略語が多いため、業種ごとに比較表を分けて作らせると整理しやすくなります。
章末チェック
最後に、この章で学んだ知識をアウトプットして定着させましょう。全問に答えたら「答え合わせ」を押してください。
問1. PD-MコースとPD-Sコースの「経営戦略・デジタル戦略」の扱いの違いを説明したものとして、最も適切なものはどれか。
問2. システム化構想の立案とシステム化計画の立案の関係を説明したものとして、最も適切なものはどれか。
問3. 業務の流れとして求める内容を定める要件定義の種類はどれか。
問4. エンタープライズアーキテクチャの4層(ビジネス・データ・アプリケーション・テクノロジ)を段階的に開発・運用するための参照モデルと標準的な進め方を提供する方法論はどれか。
問5. 必要なものを必要なときに必要な分だけ作る生産方式の考え方はどれか。
この章のまとめ
この章では、DX戦略の基本理解からシステム化構想・計画の立案、要件定義・調達契約、エンタープライズアーキテクチャ、そして業種別デジタルツールの見取り図までを、システム開発者の視点で学びました。ここで学んだアーキテクチャの4層構造は、次章で扱うシステム基盤・クラウドの技術選定を理解する土台になります。
次章では、サイバーフィジカルシステム・IoT・コンピュータアーキテクチャといったシステム基盤の技術と、クラウドサービスの活用方法を学びます。→ 第2章 システム基盤とクラウド