この章で学ぶこと
第1〜4章では、データそのものの扱い方(ガバナンス・品質・基盤・統計)を学びました。この章では、そのデータを活用する主体として存在感を増しているAIを扱います。社会全体でのAI活用の原則から、実務で生成AIをどう使いこなすか、そしてAIを使う上で押さえるべきデータ・AI倫理まで、シラバスで新しく重視されている領域です。第8章のケーススタディでも「AIへのデータ入力」が題材になるため、その前提知識としても重要な章です。
AI社会と利活用の目的
社会全体でAIを安全かつ有効に活用するための基本的な考え方がAI社会原則です。これを実現するために必要な環境が整った状態をAI-readyな社会と呼び、実務での活用にあたって事業者が守るべき指針をまとめたものがAI事業者ガイドラインです。
AIを何のために使うのかという目的は、対象を分類・識別する識別AIの場合、仮説を裏付ける仮説検証、データから新たな気づきを見出す知識発見、問題の原因を突き止める原因究明、人間の判断を後押しする判断支援、そして定型作業をAIに任せる活動代替という識別AIの利活用目的に整理できます。第3章で扱った「機械学習を用いたデータ分析」を、実際にどんな目的で使うのかを具体化したものと捉えると理解しやすくなります。
扱う用語(精選・4語)
- AI社会原則/AI-readyな社会/AI事業者ガイドライン
- 識別AIの利活用目的(仮説検証・知識発見・原因究明・判断支援・活動代替)
学習方式と生成AIの技術
AIの学習方式は大きく3つに整理できます。正解データを与えて学習させ、新しいデータに対する予測を行う教師あり学習による予測、正解データを与えずにデータの構造や似たもの同士をまとめる教師なし学習によるグルーピング、試行錯誤の結果に報酬を与えることで最適な行動を学習させる強化学習による意思決定の支援です。
近年の生成AIに関する技術としては、文章・画像・音声など複数種類の情報を同時に扱えるマルチモーダルAI、出力のランダム性(多様性)をパラメータで調整するランダム性の制御(同じ質問でも毎回少しずつ違う回答が返る仕組み)、社内文書や最新情報など外部の知識を検索して回答に反映させるRAG(Retrieval-Augmented Generation)による知識連携(AIが学習していない最新のデータや社内固有の情報を扱う場合に有効)を押さえます。
扱う用語(精選・6語)
- 教師あり学習による予測/教師なし学習によるグルーピング/強化学習による意思決定の支援
- マルチモーダルAI/ランダム性の制御/RAGによる知識連携
生成AIの実務活用
生成AIから望む出力を引き出すための指示の組み立て方がプロンプトエンジニアリングです(第1〜4章の「AIで学ぶ」で実践してきた「役割設定→関連づけの指示→出力形式の指定」もこの一種です)。会話全体を通じてAIの振る舞い方を設定する指示がシステムプロンプトで、ユーザーが毎回入力するプロンプトとは別に、AIの基本的な役割やルールを固定する役割を持ちます。
生成AIの活用例としては、文章の添削・要約、アイディアの提案、論文の執筆、プログラミング、静止画・動画・音声の生成、情報収集、そして複数の生成AIの回答を突き合わせて確からしさを確認する複数の生成AIを用いた検証など幅広い用途があります。
単に質問に答えるだけでなく、目的達成のために自律的に計画・実行するAIの利用形態をAIエージェントと呼び、その活用領域及び活用目的を見極めることが実務では重要です。AIエージェントにどこまで任せ、どこから人間が確認するかという自律性と人間の関与(最終承認・例外処理など)の設計、安全性への配慮・倫理的配慮・法令順守といった逸脱を防ぐ制約であるガードレール、AIエージェントが実際の業務ツールやシステムと安全に連携できるようにする基盤を整えるハーネスエンジニアリングもあわせて押さえます。
扱う用語(精選・7語)
- プロンプトエンジニアリング/システムプロンプト
- 生成AIの活用例(文章添削・要約・アイディア提案・論文執筆・プログラミング・画像/動画/音声生成・情報収集・複数生成AIでの検証)
- AIエージェントの活用領域及び活用目的
- 自律性と人間の関与(最終承認・例外処理)
- ガードレール(安全性・倫理・法令順守)/ハーネスエンジニアリング
深掘り: ディープラーニングの基礎とは?
仕組みを理解する: なぜAIエージェントには「ガードレール」が必要なのか
従来の生成AIは「質問に答えて終わり」でしたが、AIエージェントは自律的に複数のステップを実行し、実際の業務システムを操作することもあります。この自律性が高まるほど、意図しない操作(誤ったデータの削除、権限外の情報へのアクセスなど)が起きるリスクも高まります。
そこで重要になるのが、自律性と人間の関与の設計です。すべての操作を人間が承認していては自動化の利点が失われますが、重要な操作(最終承認が必要な場面)や想定外の状況(例外処理)では必ず人間を介在させる、というように線引きを行います。ガードレールは、この線引きを技術的・ルール的に強制する仕組みです。第8章のケーススタディで扱う「AIへのデータ入力による情報漏えいリスク」も、このガードレール設計が不十分な場合に起きる典型的な問題です。
情報の真偽とAI倫理
AIやデータを扱う上で守るべき基本的な倫理として、まず研究や報告において存在しないデータを作り出すねつ造、データを都合よく書き換える改ざん、他者の成果を無断で使う盗用という「データのねつ造・改ざん・盗用」は明確な不正行為として禁止されます。情報の真偽を確かめるファクトチェック、自分と似た意見ばかりが反響して増幅されるエコーチェンバー、アルゴリズムによって自分の興味関心に近い情報ばかりが表示されるフィルターバブルは、SNSや検索エンジンの普及で特に問題視される現象です。
扱う用語(精選・4語)
- データのねつ造・改ざん・盗用
- ファクトチェック/エコーチェンバー/フィルターバブル
AIのリスクとガバナンス
AI特有のリスクとして押さえておくべきなのが、AIの出力データにおける誤った情報や偏った情報などへの配慮を求めるAIのリスク・脅威と、AIがもっともらしい嘘を生成してしまうハルシネーションです。生成AIの回答をそのまま信じるのではなく、出典元データの出処を確認することの必要性が強調されるのはこのためです。
こうしたリスクに人間がどう向き合うかという規範がAI倫理、それを組織として統制する仕組みがAIガバナンスです。第1章のデータガバナンスと同じ構造——「守るべき規範(倫理)」と「それを実行させる統制の仕組み(ガバナンス)」の関係——がAIについても成り立つと捉えると理解しやすくなります。
扱う用語(精選・5語)
- AIのリスク・脅威/ハルシネーション
- 出典元データの出処を確認することの必要性
- AI倫理/AIガバナンス
AIで学ぶ
ここまでの用語は、ChatGPTやClaudeなどの生成AIに以下のプロンプトを投げかけると、比較表つきでさらに深く掘り下げて学習できます。コピーして使ってみましょう。
あなたはデータマネジメント試験の講師です。「AI利活用とデータ・AI倫理」の範囲について、以下の用語を初学者向けに**関連づけながら**説明してください(単体の丸暗記より、用語同士のつながりを理解したほうが記憶に定着しやすく、試験本番で紛らわしい選択肢を見分ける力もつくためです)。用語同士の違いが分かる**比較表**を最後に付けてください。
【AI社会と利活用の目的】AI社会原則、AI-readyな社会、AI事業者ガイドライン、識別AIの利活用目的(仮説検証・知識発見・原因究明・判断支援・活動代替)
【学習方式と生成AIの技術】教師あり学習、教師なし学習、強化学習、マルチモーダルAI、ランダム性の制御、RAGによる知識連携
【生成AIの実務活用】プロンプトエンジニアリング、システムプロンプト、生成AIの活用例、AIエージェント、自律性と人間の関与、ガードレール、ハーネスエンジニアリング
【情報の真偽とAI倫理】データのねつ造・改ざん・盗用、ファクトチェック、エコーチェンバー、フィルターバブル、AIのリスク・脅威、ハルシネーション、AI倫理、AIガバナンスこの章はAI自身について学ぶ内容のため、「AIに、AI自身の限界(ハルシネーションなど)を説明させる」という一段メタな使い方も有効です。返ってきた説明が本当に正確か、出典元データの出処を確認する姿勢を持ちながら使ってみましょう。
章末チェック
最後に、この章で学んだ知識をアウトプットして定着させましょう。全問に答えたら「答え合わせ」を押してください。
問1. 識別AIの利活用目的のうち、データから新たな気づきを見出すことを表すものはどれか。
問2. 社内文書や最新情報など外部の知識を検索し、その結果を回答に反映させる生成AIの技術はどれか。
問3. AIエージェントの自律性が高まる中で、安全性への配慮・倫理的配慮・法令順守といった逸脱を防ぐために設ける制約を何というか。
問4. アルゴリズムによって自分の興味関心に近い情報ばかりが表示され、視野が狭まる現象を何というか。
問5. 生成AIがもっともらしい誤情報を生成してしまう現象を何というか。
この章のまとめ
この章では、AI社会原則という社会全体の土台から、生成AIの実務活用(プロンプトエンジニアリング・AIエージェント・ガードレール)、そしてハルシネーションやフィルターバブルといったAI・データ倫理までを学びました。「AIに何ができるか」だけでなく「AIとどう向き合うべきか」という視点が、この章の核心です。
次章では、ここまで扱わなかったデータベースと情報セキュリティマネジメントの基礎を、DM試験で問われる範囲に絞って簡潔に押さえます。→ 第6章 データベースとセキュリティの基礎