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この章で学ぶこと

第6章では検知・防御の技術を学びました。この章では、それらの対策を支える土台となる認証技術と暗号・PKIを学びます。まずデータを守る暗号技術と多様化する認証方式を押さえ、次にアイデンティティ連携・生体認証、そして暗号技術そのものの仕組み(暗号方式の基礎・鍵管理・ハッシュ関数)、最後にPKI・証明書と耐量子計算機暗号まで進みます。77語とやや多めですが、「何を・誰を・どう証明するか」という視点で一貫しています。

データ保護のための暗号技術と認証の基礎

保存データを守る技術として、ディスク全体を暗号化するストレージ暗号化、個々のファイル単位で暗号化するファイル暗号化、データベース内のデータを暗号化するデータベース暗号化があります。改ざんされていないことと作成者を証明するデジタル署名、共有鍵を使ってメッセージの改ざんを検知するメッセージ認証符号(MAC)、その代表的な実装であるHMAC、ソフトウェアの配布元と完全性を保証するコードサイニング、通信相手が本人であることを確認するエンティティ認証、DNS応答が偽造されていないことを保証するDNSSECも、データと通信の真正性を守る技術です。

認証そのものも多様化しています。パスワードに加えて別の要素も求める多要素認証、複数の段階を経て認証する多段階認証、普段と異なるアクセス状況を検知して追加認証を求めるリスクベース認証、盗まれても再利用できないフィッシング耐性のある認証(後述のFIDOが代表例)があります。歴史的な認証プロトコルとしては、チケットを使って何度もパスワードを送らずに済むKerberos方式、組織のディレクトリサービスと連携するLDAPサーバでの認証も押さえておきましょう。

扱う用語(精選・15語)

  • ストレージ暗号化/ファイル暗号化/データベース暗号化/デジタル署名/メッセージ認証符号(MAC)/HMAC/コードサイニング/エンティティ認証/DNSSEC
  • 多要素認証/多段階認証/リスクベース認証/フィッシング耐性のある認証/Kerberos方式/LDAPサーバでの認証

アイデンティティ連携・SSOと生体認証・パスワードレス認証

複数のサービス間で認証情報を安全に連携させる標準規格がアイデンティティ連携(OpenID Connect・SAML・OAuth 2.0・IdP)です。認可の仲介役であるIdP(Identity Provider)を軸に、認可の途中経路を保護するPKCE、サービスへのアクセス許可を表すアクセストークン、期限切れ後に再取得するためのリフレッシュトークン、利用者情報を安全にやり取りする形式JWT(JSON Web Token)が組み合わさって動きます。1回のログインで複数サービスを使えるシングルサインオン(SSO)、これをクラウドサービスとして提供するIDaaS(Identity as a Service)も、実務で広く使われています。

パスワードに頼らない認証も普及が進んでいます。指紋や虹彩のような身体的特徴、歩き方やタイピングの癖のような行動的特徴を使う生体認証には、本人なのに拒否してしまう本人拒否率(FRR)、他人なのに受け入れてしまう他人受入率(FAR)、両者が釣り合う水準を示す等価誤り率(EER)という精度指標があります。写真や録音による「なりすまし」を見破るライブネス検知(アクティブ検知・パッシブ検知)も重要な技術です。パスワードを使わない認証の標準規格がFIDO(FIDO2・WebAuthn・CTAP・パスキー)で、SMSなどで一度きりのコードを送るワンタイムコードとあわせて、パスワードレス時代の認証基盤を形成しています。

扱う用語(精選・15語)

  • アイデンティティ連携(OpenID Connect・SAML・OAuth 2.0・IdP)/PKCE/アクセストークン/リフレッシュトークン/JWT(JSON Web Token)/シングルサインオン(SSO)/IDaaS
  • 身体的特徴/行動的特徴/本人拒否率(FRR)/他人受入率(FAR)/等価誤り率(EER)/ライブネス検知/FIDO(FIDO2・WebAuthn・CTAP・パスキー)/ワンタイムコード

暗号方式の基礎と鍵管理

暗号方式には、同じ鍵で暗号化・復号する共通鍵暗号方式と、暗号化用と復号用で異なる鍵を使う公開鍵暗号方式(RSA暗号・DSAなど)があり、それぞれの長所(速度・鍵配送の容易さ)を組み合わせたハイブリッド暗号が実務では広く使われます。公開鍵暗号の中でも、より短い鍵長で同等の強度を実現する楕円曲線暗号と、その署名方式ECDSA(楕円曲線DSA)が近年主流です。安全に鍵を共有する方法としてDiffie-Hellman鍵交換(DH)とその楕円曲線版ECDHがあり、過去の通信が後で鍵が漏れても解読されない性質である前方秘匿性(PFS)を実現します。

暗号の安全性は鍵の管理に大きく依存します。鍵を作る鍵生成から始まり、配送・保管・更新・廃棄までを含む鍵管理全体を鍵のライフサイクルとして捉えます。鍵を安全に保管する専用のハードウェアがHSM(Hardware Security Module)、それをソフトウェア・クラウドで実現する鍵管理システム(KMS)です。鍵の元になる乱数を生成する仕組みとしては、計算で生成する擬似乱数生成器(PRNG)、量子力学的な現象を使うことで真の乱数に近づける量子乱数生成器(QRNG)があります。技術の進歩により暗号が安全でなくなることを危殆化と呼び、鍵の長さなどで表される暗号強度(ビットセキュリティ)を定期的に見直す必要があります。

扱う用語(精選・17語)

  • 共通鍵暗号方式/公開鍵暗号方式(RSA暗号・DSAなど)/ハイブリッド暗号/楕円曲線暗号/ECDSA/Diffie-Hellman鍵交換(DH)/ECDH/前方秘匿性(PFS)
  • 鍵生成/鍵管理/鍵のライフサイクル/HSM/鍵管理システム(KMS)/擬似乱数生成器(PRNG)/量子乱数生成器(QRNG)/危殆化/暗号強度(ビットセキュリティ)

ハッシュ関数とブロック暗号

データから固定長の値を計算し、わずかな変更でも全く違う値になる仕組みがハッシュ関数です。代表的な規格がSHA-2(SHA-256など)・SHA-3で、安全なハッシュ関数には、ハッシュ値から元データを逆算できない原像計算困難性(一方向性)、同じハッシュ値になる別のデータを見つけられない第二原像発見困難性・衝突発見困難性という3つの性質が求められます。かつて広く使われたMD5及びSHA-1の危殆化(脆弱性が発見され安全でなくなったこと)は、暗号アルゴリズムも永遠には安全でないことを示す典型例です。

データを一定サイズの塊(ブロック)ごとに暗号化するブロック暗号(AES(Advanced Encryption Standard)など)、データを連続的に暗号化するストリーム暗号(KCipher-2など)があり、ブロック暗号を実際にどう繰り返し適用するかを定めるのが暗号利用モード(CBC・CTRなど)です。暗号化と改ざん検知を同時に行う認証暗号(認証付き暗号・AEAD)、IoT機器のように計算資源が限られた環境向けの軽量暗号も、2027年シラバスで扱われる実務的なテーマです。

扱う用語(精選・11語)

  • SHA-2(SHA-256など)/SHA-3/原像計算困難性(一方向性)/第二原像発見困難性/衝突発見困難性/MD5及びSHA-1の危殆化
  • ブロック暗号(AES)/ストリーム暗号(KCipher-2など)/暗号利用モード(CBC・CTRなど)/認証暗号(AEAD)/軽量暗号

PKI・証明書と先進暗号技術

公開鍵が本当に本人のものであることを保証する仕組みが公開鍵基盤(PKI)です。信頼できる第三者として証明書を発行する認証局(CA)、政府機関向けの政府認証基盤(GPKI)、CAの運用方針を定めたCP/CPS(Certificate Policy/Certification Practice Statement)、ブラウザベンダーとCAが証明書の基準を協議するCA/Browser Forum、証明書の国際標準形式ITU-T X.509があります。証明書を検証する際は、発行元をたどって信頼できるか確認する証明書パス検証、失効した証明書の一覧である証明書失効リスト(CRL)、その場でオンライン照会するOCSP、ソフトウェア配布用のコードサイニング証明書、発行手続きを自動化する証明書自動発行(ACME)、CAを限定できるCAA(Certification Authority Authorization)が使われます。

先進的な暗号技術としては、秘密情報を複数に分割し一定数以上集めないと復元できない秘密分散、暗号化したまま計算できる準同型暗号、秘密の中身を明かさずに知っていることだけを証明するゼロ知識証明、ハードウェア内に隔離された安全な実行環境TEE(Trusted Execution Environment)、量子力学の原理で盗聴を検知しながら鍵を配送する量子鍵配送(QKD)があります。将来の量子コンピュータでも解読されにくい耐量子計算機暗号(PQC・ML-KEM・ML-DSA)への移行は2027年シラバスの新設テーマで、移行に備えて暗号方式を柔軟に切り替えられるようにしておく暗号アジリティ(Crypto Agility)という考え方もあわせて重要です。

扱う用語(精選・19語)

  • 公開鍵基盤(PKI)/認証局(CA)/政府認証基盤(GPKI)/CP/CPS/CA/Browser Forum/ITU-T X.509
  • 証明書パス検証/証明書失効リスト(CRL)/OCSP/コードサイニング証明書/証明書自動発行(ACME)/CAA
  • 秘密分散/準同型暗号/ゼロ知識証明/TEE/量子鍵配送(QKD)/耐量子計算機暗号(PQC)/暗号アジリティ(Crypto Agility)

AIで学ぶ

ここまでの用語は、ChatGPTやClaudeなどの生成AIに以下のプロンプトを投げかけると、比較表つきでさらに深く掘り下げて学習できます。コピーして使ってみましょう。

あなたは情報処理安全確保支援士(SC)試験の講師です。「認証技術と暗号・PKI」の範囲について、以下の用語を初学者向けに**関連づけながら**説明してください(単体の丸暗記より、「何を・誰を・どう証明するか」という視点で理解したほうが記憶に定着しやすいためです)。共通鍵暗号と公開鍵暗号の違い、対称性のある用語(FRR/FAR、CRL/OCSP等)を軸に整理し、用語同士の違いが分かる**比較表**を最後に付けてください。

【データ保護と認証の基礎】ストレージ暗号化、デジタル署名、メッセージ認証符号(MAC)、HMAC、コードサイニング、多要素認証、多段階認証、リスクベース認証、フィッシング耐性のある認証、Kerberos方式
【アイデンティティ連携・生体認証】OpenID Connect、SAML、OAuth 2.0、PKCE、アクセストークン、JWT、シングルサインオン(SSO)、IDaaS、本人拒否率(FRR)、他人受入率(FAR)、等価誤り率(EER)、ライブネス検知、FIDO2、WebAuthn、パスキー
【暗号方式の基礎と鍵管理】共通鍵暗号方式、公開鍵暗号方式、ハイブリッド暗号、楕円曲線暗号、Diffie-Hellman鍵交換、前方秘匿性(PFS)、鍵のライフサイクル、HSM、KMS、危殆化、暗号強度
【ハッシュ関数とブロック暗号】SHA-2、SHA-3、原像計算困難性、衝突発見困難性、MD5及びSHA-1の危殆化、ブロック暗号(AES)、ストリーム暗号、暗号利用モード、認証暗号(AEAD)、軽量暗号
【PKI・証明書と先進暗号】PKI、認証局(CA)、X.509、証明書パス検証、CRL、OCSP、ACME、秘密分散、準同型暗号、ゼロ知識証明、TEE、量子鍵配送(QKD)、耐量子計算機暗号(PQC)、暗号アジリティ

このプロンプトが「何を・誰を・どう証明するか」を軸にした整理を指示しているのは、この章の用語が「データの真正性」「本人であること」「鍵の正当性」という異なる対象を証明する技術群だからです。FRR/FARやCRL/OCSPのような対になる用語は、比較表で並べて理解すると混同しにくくなります。

章末チェック

最後に、この章で学んだ知識をアウトプットして定着させましょう。全問に答えたら「答え合わせ」を押してください。

問1. 共有鍵を使ってメッセージが改ざんされていないことを検証する技術はどれか。

問2. OAuth 2.0の認可コードフローにおいて、認可コードの横取り攻撃を防ぐために追加される保護技術はどれか。

問3. 生体認証において、本人であるにもかかわらず誤って拒否してしまう確率を示す指標はどれか。

問4. パスワードを使わない認証の標準規格で、WebAuthnやパスキーの基盤となっているものはどれか。

問5. 過去の通信内容が、将来その時点の秘密鍵が漏えいしても解読されないという性質を何と呼ぶか。

問6. かつて広く使われたが、脆弱性の発見により安全でなくなったハッシュ関数の組み合わせはどれか。

問7. 証明書が失効しているかどうかを、その場でオンラインに照会して確認する仕組みはどれか。

問8. 将来の量子コンピュータによる解読にも耐えられるよう設計された暗号技術はどれか。

この章のまとめ

この章では、データ保護のための暗号技術と多様化する認証方式、アイデンティティ連携・生体認証・パスワードレス認証、暗号方式の基礎と鍵管理、ハッシュ関数、そしてPKI・証明書と耐量子計算機暗号までを学びました。第1〜7章で、SCの専門知識のうち「脅威」「マネジメント」「対策」の主要部分を一通りカバーしたことになります。

次章では、2027年シラバスで完全新設された分野——セキュリティ実装技術・評価を学びます。ゼロトラストアーキテクチャや生成AIセキュリティなど、ここまでの知識を実際のシステムにどう実装するかを扱います。→ 第8章 セキュリティ実装技術・評価